027ノコギリ屋根工場(桐生)


私が住むまちには自動車メーカーの大きな工場があって、工場にはノコギリ屋根の建物が建っています。

ノコギリ屋根というのは三角の屋根が連なって、外から見るとノコギリの刃のようにギザギザの形状をした屋根のこと。

そのルーツはイギリスで産業革命の頃に発明され、日本には1900年頃(明治時代)に伝わって、主に紡績や織物などの工場で多く採用されてきたようです。調べてみると、群馬県の桐生には織物工場として建てられた古いノコギリ屋根の建物が数多く現存することがわかったので行ってみることにしました。

かつて織物の町として栄えた桐生には重要伝統的建造物群保存地区に指定されているエリアもあって、江戸末期から昭和初期にかけての多種多様な建築物が建ち並ぶ町並みが残ります。

写真の右側(外壁の色が違う部分)は昭和になってからリフォーム、左側部分は大正時代のまま

まずは事前に予約していた後藤織物さんを訪問。重伝建地区からは南東方向に位置します。

現地に着くと、当主の方が門の前で待っていてくださいました。後藤織物は明治3年創業の帯屋で、ご当主は5代目にあたるとのこと。敷地内を順にまわりながら、建物のことなどくわしく説明していただきました。

門をくぐると、明治初期に新築、大正14年に増築の主屋があります。

写真の右側(外壁の色が違う部分)は昭和になってからリフォーム、左側部分は大正時代のままだそうです。2階の階高が低そう。

主屋と旧釜場の間を通り抜けると、大きなノコギリ屋根の工場が現れます。

木造平屋建ての4連のノコギリ屋根になっていて、南側(写真手前)から昭和23年に建てられ、昭和24年、昭和26年、昭和39年と順に増築されていったとのこと。ノコギリ屋根の建物は戦前にもあったそうなのですが、太平洋戦争中の企業統制による強制的な譲渡で便所にいたるまで供出させられて、戦後に再建したそうです。

外壁は改修されずにほぼ建築当時の状態。外壁表面の劣化具合がなんとも趣深い感じです。外壁は建築された時期によって下地に土壁が施されている部分と、板張りだけの部分がありますが理由は不明。

ちなみに、この風格のある建物は何度か映画のロケ地となっていて、二宮和也さん主演の映画「ラーゲリより愛を込めて」では北川景子さんが建物の前で荷車を引くシーンを私も映画で見ました。

建物の中に入ると、建築面積720㎡の間仕切壁の無い広々とした空間が広がります。天井を見上げると、ふと300㎡超えの木造小屋組の隔壁の規定が浮かんできます。工場は2021年まで稼働していたそうですが、現在はすべて外注しているとのこと。室内には操業当時の機械が静かに残されていました。

それぞれの増築部分の棟境には柱が並列して通路状の空間が通っています。ノコギリ屋根の谷の部分には谷樋がありますが、雨漏りするらしく、バケツがところどころに置いてありました。

間仕切壁や壁の筋交いは見られず、柱の径も細めなので、過去の地震時の状況についてたずねてみると、東日本大震災の際は桐生では震度6弱を観測し、工場は倒れるかと思うくらい大きく揺れたそうです。

ところでノコギリ屋根工場は、ノコギリの刃でいう短辺部分にあたる屋根面に採光用の窓を設けて北側から光を取り入れるのが特徴です。

北側からの採光は太陽の光が直接入らないので、織物の生地がやけるのを防ぎ、工場内に一日を通して安定した光が入ることから、織物の作業に適していたといいます。

訪れた日はよく晴れていたこともあって、照明器具が無いにもかかわらず窓からの光が差し込んで、かなり明るく感じました。ちなみに薄曇りの日でも室内は明るいそうです。

続いて、後藤織物さんのすぐ近くにある森秀織物工場に行ってきました。森秀織物工場の一部は体験型の博物館「織物参考館‟紫‟」となっていて、敷地内には2棟のノコギリ屋根の建物のほか、大正から昭和にかけて建てられた織物業の建物群が残されています。

現在は博物館の展示室として活用されているノコギリ屋根の旧工場です。木造平家建て、建築面積582㎡の4連のノコギリ屋根で、最初に南側1連の部分(昭和21年頃)が建てられ、その後昭和20年代に中央の2連、30年代に北側の1連へと増築されています。

建物の中に入ると、こちらも広々とした開放的な空間が広がります。室内ではさまざまな織機など織物に関する道具が展示されていて織物の歴史を学ぶことができます。間仕切壁は無く、各連の桁行(東西)中央部には独立柱があって長いスパンの梁を支えています。

こちらの建物でも上部の開口からのやわらかな光が差し込み、自然光の明るさを実感!

敷地内にはもう1棟、3連ノコギリ屋根の工場(大正13年頃建築)があって、こちらの建物は現在も織物工場として稼働中で、ジャカードという織機で織物を製織する様子を見学することができます。

採光窓をながめていると、施行令の有効採光面積の算定方法に出てくる天窓の規定が頭に浮かびます。天窓はその採光効果から採光補正係数の計算では3倍に換算される、という規定。ノコギリ屋根の場合、窓面の勾配が垂直に近いので、天窓(トップライト)というより高窓(ハイサイドライト)ですが・・・

市街地建築物法施行規則では居室の床面積の1/10以上の有効面積をもつ窓又はこれに代るべき採光面を要求していましたが、「改訂解説市街地建築物法,昭和2年,国立国会図書館デジタルコレクション」によると、当時、ロンドンやグラスゴー、香港も1/10と規定されていたようです。

採光規定の数値もノコギリ屋根と同じようにイギリスを手本としたのかも。

旧金谷レース工業(現ベーカリーカフェレンガ)
旧曽我織物鋸屋根工場

市内には、他にも大谷石造や鉄骨で補強されたレンガ造のものがあったり、用途もベーカリーレストランや美容院に転用されているものがあったり。さまざまな活用事例があって、多少、法規制も気になりつつ、ノコギリ屋根工場の利活用の幅の広さに感心した1日でした(K.M)